「天城越え」という言葉をご存知でしょうか?1986年発売の石川さゆりの大ヒット曲で有名ですが、そもそも天城越えとは、静岡県伊豆市と賀茂郡河津町の境にある天城峠を越える旅路のことでして、伊豆半島の内陸と半島南部の間には天城山の峰々があり、これを越えるのは下田街道の最大の難所でありました。1904年(明治37年)に天城トンネルが開通し、多くの人と物資がこの天城峠を越えて行き来するようになりましたが、出来る前は命がけの峠のようであったそうです。天城越えは川端康成の『伊豆の踊子』や、松本清張の『天城越え』などのテーマにもなっているので一度は聞いたことがあるかもしれませんね。
連なる山の天城連山の標高約1,000m付近に経つ「天城の家」が建設されたのは、確か昭和44年(1969年)。東京にある出版会社が取引先、関係者、従業員向けの福利厚生の為に作られた約60坪の大きな建物でした。そこを2008年に大掛かりなリノベーションを施しました。
小刻みに分かれていた部屋を大きな部屋に吸収し、床を全面的にイタリアから持ち込まれた、やや重厚でいてラグジュアリーなタイルに変えたり、仕事場であるアトリエは杉の無垢板を張り、押し入れを改造した本棚を全面に設けたりと…かなり住みやすく&使いやすくなりましたが。
が、なんせ標高1,000に位置するので、気候条件はとても厳しく、真冬の積雪は1m程度近く積もり、風は半端じゃないぐらい吹き荒れ(アンテナ2回飛ぶ)、梅雨時期を問わず常に高い湿度に悩まされ、やはりもともと人が住む場所でないところに住むということの難しさや、自然との関係を考えさせられる建物です。
この建物は弊社の自社建物ですので、以前は名古屋から、横浜から、それぞれここに集まり新年会を催したり、ヴィンテージテイストや別荘ライフに憧れるお客様をお連れしてご覧になって頂いたりと活用してきましたが、現在は中々行く機会が少なくなり山の中で静かに佇んでいるのでしょうね。
毎週のように名古屋から3時間半ぐらい掛けて愛犬Rossiと行き、途中のスーパーでしこたま食料品を買い占めて、ここに籠って過ごしていた頃がとても懐かしい想い出です。
設計監理: アイシーエー・アソシエィツ一級建築士事務所(静岡)撮影: 加納準